スカートに絵の具はステータスか?
「あれ。これどうしたの?」
学校の服装検査。
まだ若い女の先生がものさしを持ちながら問いかける。
見るとスカートに汚れがついている。
この私立高校の制服のスカートは茶系のタータンチェックで、近隣の中学生にも人気の可愛らしいスタイルだ。
プリーツの間に、青っぽい灰色のような汚れがついている。
よく見ると、赤や黄色の液体がはねたような跡も見える。
「絵の具です。」
女子生徒はさも当然のように言う。
目線を上にあげると、チャコールグレーのカーディガンの裾にも黄色い汚れがついている。
黒い上着の袖口にも水色の何かがついている。
「これ。取れないの?」
まだ勤めて間もない女教師は問いかける。
自分が高校生だったころのことを思い出し、『私はもっと綺麗な状態で3年間過ごした』とでも言いたそうな口ぶりだ。
「クリーニングにだしても、取れないんです。」
スカートの裾が短いわけでもないし、ウェストに折り返した跡がついているわけでもない。洗ってもとれないのなら仕方ない…とでも考えたのだろうか。
手を見せるように言うと、爪の生え際に注目しているらしい。マニキュアの跡?とでも思っているのか?
「これは何?取れないの?」
またか、とため息をつきそうになる。
爪の側面、除光液でマニキュア落とすと残りやすいところが、なんだか黒っぽくなってる。鉛筆の粉みたいな色だ。
「木炭です。お風呂でよく洗ったんですけど。」
木炭?洗ってもとれないのか?と一瞬不思議そうな表情を浮かべたが、スルーすることに決めたようだ。
次の女子生徒に目をやると、今度は靴下に緑色の何かがついている。
思わず目をすがめ、その次の生徒へと目線を向けると、同じような女子生徒が何人も並んでいた。。。
服装検査の一日。
娘目線で書いてみた。
普通科や音楽コースの生徒達は爪にマニキュアの跡がついていないかとか、スカートが短すぎじゃないかとか、化粧してるんじゃないかとか、ピアスの穴があいてないかとか厳しくチェックされるのだが、美術コースの生徒達はほとんど注意されることはない。
女子高生らしいオシャレに興味のない美術コース、とくにファイン系の女子達は、汚れているのを指摘されることがほとんどだ。
汚れている原因はアクリル絵の具や油絵具、中にはペンキなどということもあり、ついてしまったら綺麗に取るのが難しいものも多い。
入学間もない時には制服につくのを気にして、彩色の時には美術用のつなぎを着たりしていた。
が、高3になって毎日彩色するようになってくると、めんどくさくて着替えたりしなくなったようだ。
時には白いブラウスの背中に水色のペンキがべったりついてしまったこともある。
今美術予備校に通う時の洋服選びは、『絵の具がつく』ことを前提に選んでいる。
昨日は新しいパーカーを着ていったのだが、夜帰ってきたらもう絵の具をつけて戻ってきた。
座ったイスについていたのだという。
絵の具がついてもサマになるスタイル。
それが美術系学生のベーシックだ。