漫画の効能:美大受験の役にたつのか
「また漫画なんか読んで!あなた受験生じゃないの?」
高校3年生の秋。
美大受験生だからといって、絵ばかり描いているわけではない。
私立美大受験のためには、学科の点数も結構大事だ。
↓娘の本棚の一部 もっと片付けろ~
「今日は英語をやるから。」
画塾の休みの日。
学習塾に通うとかえって成績が下がってしまう英語のセンスのない娘は、日曜の朝からそう言って机にむかっていた。
そろそろお昼、何食べる?と聞こうと思ってそばに行ってみたのだ。
ノートを見ると、何問か解いた後はある。がまだやり始めたばかりの感が否めない。
武蔵野美術大学も多摩美術大学も、実技ができれば合格するわけではない。
受験するには英語(外国語)と国語の学科も受けなければならなくて、恐ろしいことに足切りもある。
実技でたとえ満点を取ったとしても、っていうかそんなのあり得ないけど、学科で2教科合わせて100点近く取らないと合格最低ラインを超えないのだ。
苦手な学科の勉強をしていると、誘惑が多いのはわかる。
ネットや漫画やゲームなど、誘われてばかりだろう。
「ちゃんとやれないなら漫画出せないようにしまっちゃうよ?」
子供のころから何度も繰り返されたセリフをまた言ってしまった。
相変わらず成長のない娘だ。
と思ったら、珍しく反論してきた。
「でも、漫画だって役に立つんだよ?」
知らない情報を教えてくれるとでも言うつもりか?くだらない。漫画から得られる情報は役に立つこともあるけど、うそや主観的な考えの方が圧倒的に多いじゃないか。と反論の用意をしているとマシンガントークが始まった。
「漫画ってね。意外と絵の勉強になるんだよ。ほらここ見て」
と本の一部を指さす。
「ほらここ、すっごいデフォルメされてるでしょ。これ描いている人は、どこを注目させたいか考えながら描いているんだよね。読者の目線をどこに持っていくか考えながら描いているわけ。この場面のこのコマではここが主役なのね。ということは、脇役がどこかにあるわけで、主役を引き立たせたいから脇役はあまり描きこまなかったりするの。コマ一つでも作者の意図がはっきり表れているのね。
次はここ、ページの一番最後のコマね。ここのコマは次のページの引きにつながっているの。だから大事なコマなんだけど、読者がページをめくりたくなるような効果を与えないといけないのね。わくわくしながらめくると…。ほら!こうなる!衝撃的でしょ?ページをめくりたいと思わせ、めくらせると、その行為の贈り物として、満足できるような展開を与えているの。これは漫画だからページをめくることでそういう展開を与えるのだけど、一枚の絵でも同じなのね。
たとえば受験の時に学生が描いた絵を並べるでしょ。2~30枚一気に並べるのね。そこで絵を見る人、そこの大学の教授とかだと思うケド、魅力的な絵をまず抜いていくのね。つまり、少し遠くから離れてみた時に、他の絵よりも注目させないといけないの。良い方向の印象をもって注目させることが大事なのね。近寄って見てみたいと思わせることが大事なの。近寄って見た時に、その行為の贈り物として満足できるような何かを用意しておかないといけないのね。近寄って見て『いいな』って思わせる絵を提示しないとダメなの。『いいな』って思ったら、もっとよく見るはずだから、そしたらもっと魅力的な何かを用意しないといけないの。つまり、絵を見る人の視点を考えて絵を描くということで、漫画は絵の勉強にとっても役に立つんだよ。」
…漫画の効能をまくしたてられてしまった。漫画も絵の役に立つのだと説得されてしまった。そっかぁ。じゃぁ。漫画読むのも悪いことばかりじゃないんだね。
と、納得させられそうになって気がついた。
「絵の勉強になるかもしれないけど、英語の勉強にはならないじゃないか!」
娘がぺろりと舌をだした。