画家は嘘つきだ
『だまし絵』や『トリックアート』などの嘘つき絵のことではない。
普通の絵画だ。
一見、忠実に現実を切り取ったように見える作品でさえ、平気で嘘をつく。
グランドオダリスク
背骨の数が多すぎる
オフィーリア
季節の違う草花が咲き誇る
ヴィーナスの誕生
人体の比率としてありえない。
他にも上げれば数限りない。
嘘をついていない絵を探す方が一苦労なのではないか?
なぜ画家は嘘をつくのか?
答えは『絵画は画家の見方を教えているから』だ。
画家の視点というフィルターを通して見た世界を、二次元に表現するものが絵画だからだ。
現代において、現実を写し取る鏡として絵画を用いることはない。
絵は真実を描くものではない。
理想化したり、醜く描いたり、描くことによって伝えたいものがある場合、画家は絵を描いてそれを伝える。
フェルメールを例にとってみる。
彼は、「カメラ・オブスクラ」という原始的なカメラのような機材を使って絵を描いたと知られている。
ピンホール現象を利用して、写実的に絵を映して描いたのだ。
だからといって、フェルメールは単純に絵を写真のようにそのまま写したわけではない。
実際にはあるはずのない光や影を加えたり削ったりして、あのような『写真のような』絵を完成させている。
つまり、絵を描く人は恒常的に嘘をついているといえる。
例えば美学生がデッサンを描く場合。
いくつかの静物(ワイン、花瓶、他)が台の上に置かれているとしよう。
見る場所によってはモチーフのワインと花瓶の輪郭線が重なり、くっついてしまっているように見える時がある。この場合には配置を調整して輪郭線が被らないように、またはもっとしっかり重なるように調整する。
輪郭線がくっついていると、不安定な画になってしまうからだ。
(もちろん、それを作品としてあえて行うこともあるけれども、それはかなり高等な技術が必要になる。)
つまり、絵を描く人は常に、日常的に小さな嘘をついているといえる。
だから、彼らが描く『自画像』は本人よりも男らしかったり、美しかったり、醜かったり、年おいていたりするのだ。
表現の手段として『自画像』を描いているだけなので、それは写真のブロマイドとは全く違う。
彼らは平気で嘘をつくということを、忘れてはならない。